
治療費は、事故から発生した傷害の治療に必要かつ相当な範囲であれば、その実費全額が損害として認められます。
保険会社側からは、「必要もないのに長期間入院した」「治療の必要性や合理性がない」などと主張されることがあります。過剰診療だという主張です。
裁判では、治療費が高額すぎると争われることもあります。
診療行為に対する報酬額が、特段の事情がないにもかかわらず、社会一般の診療費水準に比べて、著しく高額な場合、問題になります。
裁判例では、治療費の一点の単価が問題にされたケースも多いです。
信義則を理由に、一点単価を下げられた裁判例もあります。
理由なく、高額治療を診療する場合には、後に、損害として認められない可能性があるということを頭に入れておいた方が良いでしょう。
交通事故の入院時に、一般の部屋ではなく、特別室を使うようなケースもあります。
その費用は、損害として認められるのでしょうか。
この点については、医師の指示があったりとか、特別な事情があれば特別室の使用料も損害として認められることもあります。
具体的には、病状が重かったり、空室がないために一時的な利用だったりなどの場合に、損害として認められるケースがあります。
鍼治療、マッサージ等の治療費が、交通事故の損害として認められるためには、原則として医師の指示によることが必要です。温泉治療についても同様です。
整骨院の施術費用についても問題になりやすいです。マッサージなどよりは、交通事故による損害として認められやすいですが、頻繁に通っていると全額が認められないこともあります。
たとえば、横浜地裁令和元年9月30日判決では、1,2日に1回の頻繁な通院をしていたとして、損害額を6割として認定しています。
このように自己負担分が発生することもありうると覚悟しておくことが必要でしょう。
治療費は、原則として、症状固定までのものが損害となります。これ以上治療しても改善しないというのが症状固定です。これ以降の治療費は、本来は、請求できません。
しかし、症状固定後もリハビリが必要だったり、状態を悪化させないために治療が必要な場合には、将来の治療費が損害として認められるケースもあります。将来治療費が認められるかどうかは、後遺障害の内容によります。
たとえば、失明の後遺障害を負い義眼の交換費用が認められたケース、筋肉拘縮を防ぐための治療費が認められたケース、左右膝の前後十字靱帯損傷・大腿骨骨折等により将来の手術が具体化しているケース、高次脳機能障害について、症状固定後も、検査や治療を受ける必要があるとされたケースなどで将来治療費が認められています。