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裁判例:弁護士費用特約と通勤災害

 

大阪地方裁判所判決令和元年5月23日判決

交通事故では、加入している自動車保険で、弁護士費用特約を利用し、弁護士費用の負担なしで交渉や裁判を進めることができるケースも多いです。

しかし、通勤災害を含む労災事案では、利用できないケースもあります。そうすると自己負担となるので、注意が必要です。

今回は、これが問題になった大阪地方裁判所令和元年5月23日判決です。

 

 

事案の概要

原告は、勤務先からの帰宅途中に交通事故に遭いました。

加害者に対して損害賠償を請求するに際して弁護士に委任。

弁護士費用として、着手金19万4400円、報酬7万0702円及び通信費等1616円の合計26万6718円を負担しました。

自身が加入していた自動車保険契約には、いわゆる弁護士費用特約がついていました。

そこで、保険会社に対して請求したものの、拒絶。

そこで、保険会社を被告として訴えたという事件です。

保険会社は、交通事故による損害は、労働災害により生じた身体の障害によるものであるから、保険金を支払わない場合に該当する等と主張しました。

 

自動車保険契約の内容

原告は、被告との間で、原告を被保険者、被告を保険者、保険期間を同月16日午後4時から平成29年5月16日午後4時までとして、自動車事故による賠償責任保険等を内容とする自動車保険契約を締結。

本件保険契約には、自動車事故弁護士費用特約が付されており、原告は本件特約における被保険者に該当します。

特約には、第4条(保険金を支払わない場合)がありました。

そこには、「当社は、次のいずれかに該当する被害を被ることによって生じた損害に対しては、弁護士費用保険金を支払いません。」との記載があり、そのうちの一つに、

労働災害により生じた身体の障害。ただし、ご契約のお車の正規の乗車装置またはその装置のある室内に搭乗中に生じた事故による身体の障害を除きます。

との記載がありました。

労働災害が外されている趣旨について、保険会社は、弁護士費用特約は、被害を被った被保険者の被害回復ないし権利保護を図ることを目的としているところ、労働者災害補償制度による給付ないし補償が行われる人身事故については、被保険者が損害賠償請求の手続を取るまでもなく、同制度の利用により一定の給付ないし補償を迅速に受けることができることから、本件特約による補償の対象外としたものであると主張しています。

 

保険事故の内容

原告は、平成29年3月14日午後6時45分ころ、大阪府枚方市先路上において、信号機により交通整理の行われている交差点に設置された横断歩道を歩行中、右折進行してきた普通乗用自動車と衝突する事故に遭いました。

原告は、本件事故当時、勤務先からの帰宅途中。

そのため、本件事故は、労働者災害補償保険法7条1項2号にいう通勤災害に該当することは、当事者間にも争いがありませんでした。

 

交通事故事件の交渉経過

交通事故の加害者は、平成29年10月18日頃、原告に対して、本件事故による損害賠償として、54万3346円を支払う旨を提示。


原告は、上記提示に不満。

そこで、原告訴訟代理人弁護士に対して、本件事故によって原告が受けた損害に関する自動車損害賠償保障法に基づく損害賠償額全額の請求・受領に関する一切の件等を委任。

原告は、平成30年5月18日、原告代理人を代理人として、公益財団法人交通事故紛争処理センターの利用手続の申込。

紛争処理センターにおいて、本件事故によって原告が被った一切の損害に対する賠償金として、既払金105万6152円のほかに95万2506円を支払う旨の合意が成立。

原告は、本件に関し、弁護士報酬を払っています。

 

弁護士費用等の請求につき、免責条項が適用されるかが争点

保険会社は、免責条項により労災は対象外と主張。

原告は、本件免責条項にいう「労働災害」とは、いわゆる業務災害のみを指し、通勤災害を含まないと主張氏、免責条項の適用はないと主張しました。

本件免責条項には「労働災害」との文言が使用されているところ、その文言の意味は定義されていません。

よって、「労働災害」がいわゆる業務災害のみを指すのか、業務災害及び通勤災害のいずれをも含むのかは解釈によらざるを得ないとされます。


なお、業務災害とは、労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡を指し、通勤災害とは、労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡を指すものとされています。

 

約款の解釈方法

本件免責条項は、いわゆる約款です。

約款の解釈方法について、裁判所は、個々の顧客の意思や約款条項についての理解、個々の契約についての特殊事情等は考慮せず、一律の基準に従って解釈すべきであると指摘。

また、その解釈は、平均的な顧客の合理的な理解可能性を前提とすべきであって、約款の作成者たる企業の意思に拘束されるものではなく、当該文言の意味や当該約款の他の規定、法律との関係等の客観的な要素を考慮してすべきであるとしています。


特約の文言による解釈

本件免責条項は、本文に「労働災害により生じた身体の障害。」と記載されています。

ただし書きとして「ただし、ご契約のお車の正規の乗車装置またはその装置のある室内に搭乗中に生じた事故による身体の障害を除きます。」と記載されています。


このうち、ただし書きの内容は、労働災害のうち契約にかかる車両に搭乗中に生じた身体の障害を除くとするものであるところ、仮に、「労働災害」が業務災害のみを指すとすれば、ただし書き部分は、業務に従事中に契約にかかる車両に搭乗している場合を想定しているものということになります。

業務中に、労働者が、自らが自動車保険契約を締結している車両を運転するという場合は、いわゆるマイカー通勤をし、通勤に使用した自らの車両を業務にも使用するという場合として考えられなくはないが、いわゆるマイカー通勤よりも公共交通手段を利用する通勤方法をとる労働者の方が多いと考えられること、仮にマイカー通勤をしたとしても、自らの車両を業務にも使用するという業務内容はまれであると考えられることなどを踏まえれば、前記のような自らの車両を業務に使用するという業務形態は多いとはいい難いと指摘。

そうすると、敢えてかかる場合を想定して、ただし書きを設けるとは考え難いとしました。


他方、「労働災害」が業務災害及び通勤災害のいずれをも指すとすれば、ただし書き部分は、いわゆるマイカー通勤をした場合の通勤途上の事故を想定したものと考えられ、一般的に多数あり得る事故形態であるといえるから、ただし書きとして、かかる規定を設けたことも首肯できるとしています。


よって、本件免責条項の本文とただし書の内容からすれば、「労働災害」には、業務災害及び通勤災害のいずれもが含まれると解することが自然であるとしました。

 


労災保険法の文言を踏まえた解釈

では、関係法律との整合性はどうでしょうか。

労働者が被った災害に対する補償を行う制度としては労働者災害補償制度があり、労災保険法、国家公務員災害補償法、地方公務員災害補償法等が設けられています。

このうち労災保険法は、業務災害に関する保険給付と通勤災害に関する保険給付の種類を区別しているが、いずれについても保険給付の対象としています。

国家公務員災害補償法及び地方公務員災害補償法においても、補償の種類を区別した上で、いずれも補償の対象としています。

これらからすれば、労災保険法にいう「労働者災害」は業務災害及び通勤災害のいずれをも含むものと解釈できるとしています。


確かに、労災保険法が最初に施行された当時は、保険給付の対象は業務災害のみであったから、この点に着目すれば厳密な意味における労働者災害には業務災害のみが含まれると考えることも不可能ではないかもしれないとも言及。しかしながら、労災保険法において保険給付の対象に通勤災害が加えられたのは昭和48年に公布施行された改正によるものであり、同改正以後40年以上が経過した現在においては、労働者災害には業務災害のみならず通勤災害も含まれるという認識が一般的に浸透しているといえるから、労災保険法の改正の経緯を踏まえても、労災保険法にいう労働者災害に業務災害及び通勤災害のいずれもが含まれるという解釈は、平均的な一般人が合理的に理解できる解釈であるといえるとしました。


そして、本件免責条項の「労働災害」という文言は、労働者災害とは字面上は異なるが、平均的な一般人がこの文言を聞いた場合に両者に違いがあると感じるとは考え難く、いわゆる労災という認識を持つことが通常であろうと解されると指摘。

そうすると、「労働災害」という文言に、業務災害及び通勤災害のいずれもが含まれるという解釈は、平均的な一般人にとって、合理的に理解できる解釈であるといえるとしています。

 

労働安全衛生法の文言を踏まえた解釈

裁判所は、さらに、他の関係法律についても言及。

労働安全衛生法は、労働災害とは、労働者の就業に係る建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等により、又は作業行動その他業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡することをいうと定めており、同法で定義されている労働災害は、本件免責条項にいう「労働災害」と字面上、同じ文言です。


この点、労働安全衛生法の目的は、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進すること。

かかる目的は、災害を被った者に対して必要な保険給付を行って保護を図ろうとする保険契約の目的とはその内容を異にするし、上記労働安全衛生法の目的に照らせば、その射程範囲が職場すなわち業務を行っている場所に限られることは必然であって、同法にいう労働災害に通勤災害は含まれようがないとしています。


そうすると、労働安全衛生法における労働災害が業務災害のみを指すことと、本件免責条項の「労働災害」に業務災害及び通勤災害のいずれをも含むと解釈することとは、何ら矛盾しないと指摘。


労災では弁護士費用特約は使えない

裁判所の判断は、本件弁護士費用特約は、労災には適用されないというものでした。

本件免責条項の「労働災害」に業務災害及び通勤災害のいずれをも含むという解釈は、平均的な顧客にとって不測の解釈ではなく、合理的に理解することが可能なものといえるし、顧客に不測の不利益を与えるものでもないといえるとしています。

また、被告の説明する労働者災害補償制度による給付が得られる場合には、一定の補償が迅速に得られることから免責事由としたという本件免責条項の制度趣旨も一定の合理性を有するとして、本件免責条項の「労働災害」には、通勤災害をも含むものと解すると結論づけました。

 

このような内容の保険の場合には、弁護士費用特約をつけていても、労災事案では使えない、自己負担が発生するということになります。

労災事案だと、被害者補償としては有利な点もあるのですが、費用負担については微妙なケースも出てきたということですね。


 

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