死亡事故
弁護士費用特約利用なし
保険会社:農協系
二輪車と車が交差点で衝突する事故でした。
死亡事故の損害賠償請求の依頼を遺族から受けたという事件でした。
別の法律事務所に依頼していたところ、辞任されたということで、ジン法律事務所弁護士法人での受任となりました。
保険会社との交渉開始後、相当期間が経過していたものの、全く進展していないようでした。
内容としては、過失相殺の争点が大きく、こちらの過失の方が大きい事故でした。また、被害者の当時の仕事からして、逸失利益が争点になる事案でした。
保険会社は、農協系でした。
争点はあるにしても、何らかの提案を受けられるだろうと見込み、保険会社と交渉を進めましたが、非常に動きが遅かったです。
保険会社の担当者と連絡がつきにくいほか、連絡がつき、当方から資料を提出しても、回答が来なかったり、担当者が期限を区切って和解案を提示すると言ってきながら、何も連絡してこない状態が続きました。
通常の保険会社との交渉としてはありえない態度でした。
前弁護士の交渉期間も長く、消滅時効の問題も出てくるほどの時間が過ぎていました。
消滅時効については、保険会社経由で中断(当時の民法)ができたものの、それ以外の対応は全く進みませんでした。
そのため、自賠責への被害者請求をするか、訴訟等の法的手続をとるか、交渉以外の方法を検討することになりました。
遺族の意向により、訴訟提起を進めるという方針となりました。
原告は、遺族である妻と子、固有慰謝料を請求する母親という構造でした。
ただ、子は、事故当時、胎児でした。結婚・妊娠中に交通事故が起きたという悲劇です。
胎児も、出生後は、権利能力は持ち相続人となります。
妻と、唯一の子が、法定相続人となり、発生した損害賠償請求権を2分の1ずつ相続していることになります。
被告については、業務上の事故だったため、加害車両運転者のほか、車両の保有者である会社についても加えています。会社が加入していた保険会社が対応してくることとなります。
午後7時30分過ぎの事故でした。
被害者が運転していたのは、普通自動二輪車。
加害車両は、中型貨物自動車という事故でした。
交差点において、普通自動二輪車が右折。加害車両が直進という事故でした。
衝突後、被害者は、頭蓋底骨折による外傷性脳内出血により死亡してしまったという交通事故。
交通事故訴訟では、保険会社から過失相殺の主張がされることが多いです。
通常、被害者側から過失相殺を主張することはしません。
ただ、どう見ても、被害者側の過失割合が大きい場合に、過失相殺の主張を見込んで、訴額を下げるということはあります。
たとえば、損害額が5000万円、ただ、どう考えても過失相殺で5割は減らされるという場合に、最初から2500万円の訴額にする方法です。
この場合、全体損額は5000万円、そのうち2500万円だけを請求するという裁判にします。一部請求という方法です。
このような一部請求のメリットは、印紙代です。裁判では、訴額に応じた収入印紙を訴状に貼ります。
5000万円の訴状より2500万円の訴状の方が印紙代が安いです。どうせ認められない請求部分なら最初から削って印紙代を節約しようという動きです。
一部請求にもデメリットはあるので、それと印紙代節約部分をどう考えるかの問題です。
本件では、原告の主張する損害額自体は、合計1億円以上。
ただし、過失相殺が大きくされる見込みだったため、一部請求とし、金4000万円弱の損害賠償請求訴訟としたものでした。
裁判を起こしたことで保険会社側の弁護士が代理人につき、法的な話が進められるようになりました。
争点の一つであった逸失利益の基礎収入について議論がされました。
亡くなった被害者の死亡前年の課税収入は、金額が低いものでした。
ただ、被害者には、それ以外に収入があったことや、実家の家業を継ぐ可能性があったことなどの事情がありました。
そのような事情を主張し、将来の収入増が見込まれていたことから、平均賃金による基礎収入の認定がされるべきと主張しています。
実家の関係者からの陳述書なども取り付け、提出しています。家業についての業界構造を調べたうえ、文献等をチェックし主張まで進めています。
また、課税収入以外に収入があったことを、当時の家計状況などを示して裏付けてもいます。
交通事故での慰謝料については、赤い本などを基準に修正が入ります。
事故自体についての加害者の過失が大きい場合や、事故後の状況によって加算されることもあります。
本件では、加害運転者からの謝罪もないことや、保険会社の対応から、長期間、解決できずにいること、本件事故後に遺族がうつを発症していること、被害者自身も妻が妊娠中であったという立場だったことなどを主張しています。
交通事故訴訟では、相当の事件が裁判上での和解により解決されています。
今回の事例では、過失相殺については、刑事記録などの取り寄せを行い、やむを得ないものとされました。
逸失利益について争点となっており、本人尋問までするかどうかを判断することとなりました。
争点が整理されたタイミングで、裁判官からの和解勧告がありました。
和解案の内容としても、逸失利益の基礎収入に関し、平均賃金までは認めないものの、課税収入以外に、一定の収入があったことを前提とした提案がされました。死亡慰謝料についても、母親固有慰謝料を含めると、裁判例の中では高めの金額が提示されました。
長期間が経過していることなども含め、相当額の調整金を加算して、総額2000万円以上の和解案が提示されており、遺族への配慮がされた内容でした。
依頼者もこれを承諾し、裁判上の和解が成立しました。
保険会社の当初提案がなかった事案でしたので、法的手続きなどをしないと進展しない事案でした。
訴訟提起から和解金回収までは、約1年という期間でした。
保険会社当初提示案より、2000万円以上の増額となりました。